中東情勢が緊迫する中、75万人以上のアジアのイスラム教徒がメッカへ向かう。ペルシャ湾を越え、年に一度の大巡礼「ハッジ」を決行する。

ハッジはイスラム教の「5つの柱」の一つだ。身体的・経済的に可能な信者は、生涯に一度は果たさなければならない義務とされる。サウジアラビアが国ごとに割り当てるビザは競争率が高く、取得まで何年も待つ人がいる。今年の参加者は国内組を含め約200万人に達する見込みだ。

ハッジと通年行われるウムラ巡礼は、サウジ経済に年間120億ドル以上をもたらす。巡礼者の多くは数千ドルの航空券と宿泊費をすでに支払い済み。直前のキャンセルでは返金されないケースも多い。信仰と経済が複雑に絡み合う巨大イベントなのだ。

インドネシア政府の異例の決断

世界最大のイスラム教国インドネシアは、今年20万4362人分のビザを獲得した。各国の中で最多だ。巡礼者は国内14カ所から525グループに分かれて出発する。

だがジェット燃料価格の急騰で、インドネシア政府は巡礼者1人あたり約461ドルの追加負担が生じると試算した。これを国家予算で肩代わりする決定を下した。総額1兆7700億ルピア(約170億円)を投じ、巡礼者の自己負担を増やさない方針だ。

「何か不測の事態が起きても、それも信仰の一部だと受け止める」

ジャカルタの会社員、ウィビ・パンゲストゥ・プラタマさん(32歳)は来週の出発を前にそう語った。若くして5柱の一つを果たせる喜びが、戦争リスクへの恐怖を上回っている。

パキスタン、インド、バングラデシュからも数十万人が出発を控える。停戦交渉が続く中、世界が息を呑んで見守るペルシャ湾を、信仰を胸に飛び越えていく。