住みたい街3位の吉祥寺 家賃は周辺より1割高く、バス運転手の6割が50代以上

家賃は周辺より10%高い。バス運転手の60%は50歳を超えている。 不動産アプリSUUMOの「住みたい街ランキング」で3位に輝く吉祥寺。その華やかな人気の陰で、日本社会の構造的なひずみが静かに進行している。

井の頭公園という「緑の心臓」

吉祥寺の魅力を語るうえで、井の頭公園は外せない。約43万平方メートル、サッカーコート60面分の緑地が、コンクリートだらけの東京に突如として現れる。

「井の頭」とは「井戸の源」を意味する。江戸時代には飲料水の水源だった湧き水が、いまも公園の一角から絶え間なく湧き出している。その水音に耳を傾けながら散策する人々の姿は、週末になると途切れることがない。

園内には小さな動物園が2つある。宮崎駿監督が設立した「ジブリ美術館」もある。湖に浮かぶスワンボートはカップルの定番デートスポットだが、地元には「一緒に乗ると別れる」という都市伝説がまことしやかに語り継がれている。それでも行列は絶えない。 弁財天を祀る神社では、参拝者が紙幣や硬貨を水で洗う光景が見られる。「洗った金は増えて戻ってくる」という言い伝えを信じてのことだ。スピリチュアルな癒しと金運向上。現代人が求めるものが、この公園には詰まっている。

「教育の街」としてのブランド

吉祥寺が子育て世代から熱い支持を集める理由は、公園だけではない。

駅周辺には進学塾が集中している。安倍晋三元首相の母校として知られる成蹊学園をはじめ、評判の高い教育機関が揃う。「子どもの教育環境を重視するなら吉祥寺」という評判が、教育熱心な夫婦を引き寄せてきた。

1970年代、駅周辺の道路整備をきっかけに商店街が次々と生まれた。いまでは駅から1キロ圏内にデパート、家電量販店、無数の居酒屋がひしめく。猫カフェ、手芸店、ベーカリー、豆乳スイーツの店。路地裏を歩けば、個性的な店が次から次へと現れる。

新宿まで電車で15分というアクセスの良さも見逃せない。都心への通勤・通学は苦にならない。買い物も遊びも近所で完結する。「住みたい街」の上位に食い込み続けるのも当然といえる。

人気の代償──過密と高騰

だが、人気には代償がある。

吉祥寺の賃貸相場は周辺エリアより約10%高い。ワンルームでも月8万~9万円は覚悟が必要だ。20代の新社会人が「憧れの街」に住もうとすれば、手取りの3分の1以上が家賃で消える計算になる。

週末の公園は人であふれ、桜の季節ともなれば歩くのもままならない。商店街のにぎわいは魅力だが、裏を返せば慢性的な混雑を意味する。「住みたい街」と「住みやすい街」は、必ずしも一致しない。

バス運転手の6割が50代以上という現実

吉祥寺が抱える問題は、家賃高騰だけではない。

地域の路線バスを支える運転手の60%以上が50歳を超えている。若い担い手が集まらず、運行率は90%にとどまる。10本に1本は「運転手不足」で走れない計算だ。

これは吉祥寺だけの問題ではない。日本全国で進行する労働力不足と高齢化が、人気の住宅地にも容赦なく押し寄せている。外国人労働者への依存度が高まる一方、彼らが住める手頃な住宅は減り続けている。

「憧れの街」が映す日本の縮図

井の頭公園の水は絶えることなく湧き出している。だが、その美しい風景を維持する人手は、確実に減っている。 吉祥寺は「住みたい街」であり続けるはずだ。ただし、そこに住めるのは高い家賃を払える人だけになる。街を支えるバスを運転するのは、10年後には70代になる人々かもしれない。

SUUMOの2024年調査で吉祥寺は3位だった。1位は横浜、2位は大宮。ランキングの順位が変わっても、日本社会の構造的課題が解決するわけではない。次の調査結果は2025年2月に発表される。