日本の個人投資家が企業経営に口を出し始めた。議決権行使率は72%。20年前から20ポイント跳ね上がった。
かつて「安定株主」と呼ばれた存在が、いま経営陣の頭痛の種になっている。
背景には企業自身の戦略がある。政策保有株(いわゆる持ち合い株)の解消が進むなか、多くの上場企業が個人投資家を安定株主として取り込もうとしてきた。スーパー大手のブルーゾーンズ・ホールディングス(旧ヤオコー)は4月、約10年ぶりの株式分割を実施した。川野澄人社長はこう語る。「幅広い個人投資家を呼び込み、より安定した株主基盤を築きたい」
狙いは当たった。日本証券業協会によれば、個人株主の累計は2025年3月末に過去最高の8400万人に達した。約8割が1年以上株を持ち続ける長期投資家だ。株主優待やNISAの拡充が後押ししている。
「黙る株主」はもういない
だが企業の誤算が始まっている。個人投資家はもう黙っていない。
野村証券の調査では、株主総会で議決権を行使する個人の割合が7割を超えた。IR支援会社リンクソシュールの2024年調査でも、5割以上の個人投資家が株主提案に賛成票を投じた。理由は「株主還元の軽視」と「ガバナンスへの不信」だった。
象徴的な事例がある。列車乗り換え案内サービスを手がけるエキタンの株主総会で、アクティビストのボールド・インベストメントが提出した経営刷新案が約8割の賛成で可決された。エキタンの株主構成は約6割が個人投資家。彼らがアクティビストに同調した結果だ。
皮肉な現象も起きている。企業がROE(自己資本利益率)を改善して株価が上がると、個人投資家はむしろ株を売る。分析によると、ROEが向上した企業ほど個人株主比率が下がる傾向がある。利益が出れば売って利確する——人間としては当然の行動だ。
大和総研の瀬戸優樹研究員は話す。「持ち合い解消後、安定株主を確保しようと個人を増やしてきた」。だがその「安定」は幻想だった。企業は今、株価が上がれば売られ、経営に問題があれば反対票を投じられる。どちらに転んでも頭が痛い新時代に突入した。
